大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和28(あ)487 判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人田村堅三の上告趣意第一点は、被告人の行為は、国家の郵便事務が終戦後

その機能を失い、遅延紛失甚だしく国民一般が多大の困惑を感じていた際、当時の

郵便制度の欠陥を救済せんがため、商社公団の要望に応え、利用者に多大の利便を

与えたものであるから、刑罰権を発動することは、これら商社公団の有する憲法二

五条に保障された生存権を否認することを是認する結果になり、被告人がその生存

権を実現したことを理由として非難することは、違憲である、というに帰着する。

しかし、憲法二五条一項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営

み得るよう国政を運営すべきことを、国家の責務として宣言したものである。だが、

国家は、個々の国民に対して、具体的・現実的にかかる生活権を保障する義務を有

するものでない。言いかえれば、個々の国民は、直接国家に対して具体的・現実的

にかかる生活権の保障を要求する権利を有するものということはできない。したが

つて本件の場合において、所論商社公団は、憲法二五条によつて所論の生存権が保

障されているとみることはできない。これ大法廷判例の趣旨とするところである(

集二巻一〇号一二三五頁)。それ故、本件違憲の論旨は、採ることを得ない。

同第二点は、違憲をいうが、その実質は原審が適法にした証拠の取捨判断を非難

するに帰し、適法な上告理由と認めることができない。

よつて刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

昭和三三年一月一六日

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 真 野 毅

裁判官 斎 藤 悠 輔

- 1 -

裁判官 入 江 俊 郎

- 2 -

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!